「誰からも『面白い』といわれるもの」
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- 今年のDance Fanfare Kyotoは話し合う場が大切という事で、私もそれはとても大切だと思っています。お客さんが今見てきた舞台(実際にあった現実)の話題が出来るというのがパフォーミングアーツだけが持つ価値に違いない。まあ、話すのが好きじゃない人もいますけどね。
- 川那辺
- そうですね。私は、この企画をやろうと思ったきっかけが、去年のDance Fanfare Kyotoの『SYMPOSION』なんです。あれも話す場だったでしょう。私はあの時、すごく面白かったけど違和感もあって。
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- 出演者があるテーマについて話すのを見る、変わった作品でしたね。違和感とは?
- 川那辺
- 出演者が自分の興味のある特定の分野だと話すんだけど、そうでなければあんまり話さない。そういう事がちょっと引っかかったんです。もちろん、自分の興味のある事を突き詰めたり、専門性を否定する訳じゃないのですが。でも、作品を見てもらうのは不特定多数の観客じゃないですか。
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- そうですね。
- 川那辺
- あの作品をみたとき、観客には不特定多数という存在がいるにも関わらず、出演者のなかにはそれが無意識のうちにすっぽり抜け落ちていて、ある特定の相手が決まってきているのではないかと気になったんですよ。じつは、舞台制作をしていた時もずっとそのことが気になっていました。私は単純に、「舞台は凄く面白いよ」という事をいろんな人に伝えて、もっと劇場にくる人を増やしたいと思っています。そう思い続けて、巡り巡って、今は演劇やダンスのワークショップをコーディネートする仕事を中心にしています。対象は子どもや障がいのある方、高齢の方が多いです。場所も京都市内じゃなくて、さまざまな地域で活動させていただいてます。ワークショップは、私にとって、演劇やダンスの面白さを伝える1つのツールだと思っています。その仕事を通じて仲良くなった人たちには、やっぱり最終的には劇場に足を運んで、舞台作品をみてもらいたいんですね。それで、「面白い」と思ってもらいたいんです。で、そう思ってもらいたいなら、やっぱりアーティストと呼ばれる人たちには、誰からも「面白い」といわれるものを作ってもらいたい。で、私が思うに、そうした作品を作ってもらうには、まずは自分の言葉で不特定多数の人と話すという事に慣れて欲しいなというのがあるんです。色んな世界をもっと見て欲しい。すると自分の言葉が、実はある特定のコミュニティの中でしか通用していない、という事に気づくんじゃないかと思うんですよね。
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- それは正にそうですね。
- 川那辺
- そういう事を色々狙って、こういう企画を立てました。これは、もちろん一般の方もきてもらいたいのですが、ダンサーの方に来てもらいたい。そして、さまざまな視点を持ってもらえたらと思っています。
鈴木さんのノート
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- これは素晴らしい。
- 鈴木
- もったいないなと思ってしまって。一回一回の稽古が。映画や舞台も見ただけで終わったら意味がないなと思って。同じ感じで、ビラとパンフをノートに貼って感想を書くというのをいつもやっています。
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- へえええー!
- 鈴木
- 毎日、何かしら自分が吸収できる事はあると思っているんです。
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- 素晴らしい。そんな事をしている人って中々珍しいと思いますよ。普通はtwitterか何かに感想を書いて終わりかもしれない。自分の演劇活動をここまで几帳面にノートに書く人はあんまりいないでしょうね。
- 鈴木
- やっぱりネットに書く感想は外向けの感想で、自分の中には残らないので。誰々の仕草が良かったとか、そういう、誰にも言わない程度の感想を書いています。
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- しかも、こんな几帳面な字で!
- 鈴木
- 残したいという気持ちはありますね。例えば、初めての通しが終わった時に感じた悔しさって本番が終わったら忘れてしまうと思うんですよ。達成感で。本番が終わって良かったな、になるまでの悔しさや苦労を残しておかないと、結局そのお芝居が「良かったな」だけで終わってしまうので。
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- 残す。
- 鈴木
- 私が何故、客演に呼ばれているのかについて高間さんと話していて。特筆すべき見た目の良さや派手さはないし、演技が上手いという訳じゃないし。髭だるマンさんみたいな、舞台栄えするインパクトや存在感もないし。だったら、努力面でカバーするしかないのかなと思っています。
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- 努力以上のものをこのノートからは感じますね。
沖縄キジムナーフェスタ※、1Hz※、タツノリナイター※、Water Painting※、ヒキダシ_ホテル※
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- 山口さんは、最近はどんな感じでしょうか?
- 山口
- だいぶ忙しいですね。首が回らなくなってきたぐらい。先月7月いっぱいは沖縄キジムナーフェスタという児童演劇のフェスにいっていました。沖縄市の古座に滞在して、5カ国の人たちと5ヶ国語で演じる演劇作品を滞在制作していました。海外からも日本からも色んな団体さんが来ていて、楽しかったです。8/23には1Hzという、和田ながらさんの「したため」と市川タロさんの「デ」とBRDGの3団体を見られるイベントをUrbanguildでやる事になりました。その3日後が、8/26にタツノリナイターという、今村達紀さんのソロをまとめて見ていただくという企画です。
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- いいですね、それは。
- 山口
- めちゃくちゃいいんですよっ。「ハシ×ワタシ」に出演して頂いてから度々一緒に仕事したりしているんですが、身内の欲目じゃなく伸び続けていると思っています。彼がUrbunguildで上演したダンスが素晴らしくて、泣いてしまった事があるんです。ダンス好きな方にはぜひ。
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- 行きたいなあ。
- 山口
- 黒子沙奈恵さんとか出村弘美さんとか竹ち代毬也さんとか、殿井歩さんとか出るんですよ。それに、劇団壱劇屋も。
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- 山口さんのセレクションなんですね。見たいです。
- 山口
- それから、9/12に和歌山の和歌浦のART CUBE で「Water Painting」というタイトルのダンス作品を演出・振付します。和歌山、いいところですよ。それと、10月にKYOTO EXPERIMENTのオープンエントリーで参加する作品の準備も進めています。「ヒキダシ_ホテル」というタイトルで、美術館で上演します。前回公演の「TEA×HOUSE」で取り上げた、京都に長年住んでいる日本以外から来た方のこれまでの生活をリサーチ・インタビューしながら演劇作品にしていきたいと思っています。このテーマの第三弾ぐらいですね。
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- 演劇・ダンス以外では?
- 山口
- いま、通訳の勉強をしています。時々英語の翻訳・通訳の仕事もしているんですが、もう少しできるようになりたいと思いまして。
- ※沖縄キジムナーフェスタ
- 公演時期:2013/7/20~28。会場:沖縄市各地。
- ※1Hz
- 公演時期:2013/8/23。会場:UrBANGUILD。
- ※タツノリナイター
- 公演時期:2013/8/26。会場:UrBANGUILD。
- ※Water Painting
- 公演時期:2013/9/12。会場:ART CUBE。
- ※ヒキダシ_ホテル
- 公演時期:2013/10/26~27。会場:遠藤剛熈美術館。
ピンク地底人「散歩する侵略者」※※
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- 諸江さんは最近、どんな感じでしょうか。
- 諸江
- 次の舞台の稽古が始まっています。ピンク地底人の「ココロに花を」※ですね。
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- 東京・福岡の公演ですね。
- 諸江
- そうですね。残念ながら関西では今回見れないんですけど・・・実は台本が2/3くらい出来ている状態です。演出の3号本人も演出に力を入れたいみたいです。
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- 見れないかもしれませんが、各地で楽しまれたらいいですね。諸江さんが初めてピンク地底人に出たのはどの作品でしたか?
- 諸江
- 去年の8月の公演「明日を落としても」※でした。ここ最近の地底人の作り方に興味があったんです。雑踏を役者達全員がマイクで表現する「マリコシステム」と言ってる演出なんですけど。出来るまで、超しんどいんですよ。それに、出来てからじゃないと雰囲気を出すのは難しいし。
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- 意気込みを教えてください。
- 諸江
- やっぱり、それなりに傷跡を残したいというのはありますね。作品が出来てくると欲が出てきて、もっともっと深めていきたいんですね。それには適したバランスがあるはずなんです。物語と雑踏の間に、ギリギリのラインがあるんですよ。音楽的なたとえでいうと、バンドだって、なんぼボーカルが気合い入れて歌ってもバックがうるさかったら気が散ってしまうので。
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- そこが、「散歩する侵略者」ではいかがでしたか。
- 諸江
- 今回はずっと僕、散歩してたんですよ。上手く行くときもあればいかない時もあって、それは肌で感じていました。
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- 雰囲気の演出としては上手くいっていましたね。最後に片桐さんが演じる妻役とのシーンで雑踏が消えますが、そこが非常に、キレイなシーンが描き出されていたように思いました。
- 諸江
- ありがとうございます。そこに到る事が出来れば。用意した演出が、全て必要なものとして意味があるんだと受け止められれば、という事なんですよね。
- ※ピンク地底人
- 京都の地下は墨染に生まれた貧乏な三兄弟。日々の孤独と戦うため、ときおり地上にあらわれては演劇活動をしている。夢は関西一円を征服することと、自分たちを捨てた母への復讐。最近は仲間も増え、京都を中心に大阪にも出没中。(公式サイトより)
- ※ピンク地底人策略と陰謀の第11回公演 「散歩する侵略者」
- 公演時期:2013/2/15~18。会場:アトリエ劇研。第8回アトリエ劇研舞台芸術祭参加作品。
- ※ピンク地底人 大噴火の第12回公演「ココロに花を」
- 公演時期:2013/5/5(福岡)、2013/5/31~6/2(東京)。会場:王子小劇場。
- ※ピンク地底人暴虐の第10回公演「明日を落としても」
- 公演時期:2012/6/30~7/1(大阪)、2012/8/17~8/19(東京)。会場:インディペンデントシアター2nd(大阪)、王子小劇場(東京)。
質問 イガキアキコさんから 森田 真和さんへ
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- 前回インタビューさせていただきました、イガキアキコさんというヴァイオリニストから質問を頂いております。「たゆたう」という音楽ユニットをされていて、舞台関係だと劇団子供鉅人に音楽を提供したり、舞台に立つ事もある方です。「ご自身が演劇を続けている理由は何ですか」?。
- 森田
- やっぱり、自分が社会に対して一番深く爪痕を残せるのは役者なんだろうなと思っていて。先ほどおっしゃっていただいたんですが、やっぱり見た目のインパクトとかには自信があるので。
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- それはきっと、森田さんが頭の中で考えている戦略の以上に、森田さんという身体がそう考えているのかなと。
- 森田
- ええと・・・?
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- 現象としての森田さんが、そういう風に社会に影響を与えたいと思っている?
- 森田
- そうですね、でも理由は単純なんですよ。僕がそこに存在したという証を残したいんですね。まだ言葉でまとめられていないんですが。とにかく、プラスの方向に転がるような影響を与えられたらいいですね。
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- 本当は、プラスの方向がどこかに向いているかどうかより、その力そのものに興味がある?
- 森田
- ・・・ありますね。
変われた事の証明
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- 田中さんは、今後どんな感じで攻めていかれますか?
- 田中
- あのー・・・。実は、作演をしたいという願望があって。
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- おお。観たいです。
- 田中
- 大きいところに出させてもらうというのもありますので、今年なのかなと。自分の中で、何かやらなければいけないのではという思いが沸き上がってきているんです。でも、自分より若い人の作品を観ていると、よくみんなこんなものを書けるなと思って・・・。
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- なるほど。ええと、どのような初期衝動があるのでしょうか。
- 田中
- 芝居を始めた当初からその思いはありまして。当時つきあっていた彼女に、「俺しんどいねん」「めっちゃ頑張ってるのにうまく生きていけない」って、弱音でしか自分を表現出来なかったんです。だから、そういう自分を表現する芝居がしたかったんですよ。
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- なるほど。
- 田中
- もし次に付き合う女性がいたとしたら、そういう事じゃない事を言いたい。
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- どうして、そうネガティブになっていったのでしょう。
- 田中
- なかなか周りに馴染めなかったからでしょうね。喋っている相手の気持ちが分からなかったり。だから僕なんかが芝居なんか、やっていいのか不安でした。
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- それが、どこかで馴染む力を手に入れた?
- 田中
- はい。何とか、芝居を始めた頃から少しずつ。絶対それはあるんですよ。だから演劇には感謝しています。変われた事の証明として、自分の中で残したいだけなのかもしれませんけど。
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- 変化ですね。
- 田中
- だから、あまり派手で明るい作品にはならないと思うんですけどね。
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- 私はその、それが結局上演されなくても、この話が聞けただけで十分ですけどね。
一本の樹
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- 今回の「物書きの書き物」※。ストーリーの概略としては、流しの物書きの女の子が物語をスナックで発表し、その内に架空であった筈の物語が自分の過去と重なっていくというものでした。ええと、このお話はどのようにして生まれたのでしょうか。
- 中谷
- そうですね。まず、これは個人的な認識の問題なのですが・・・自分が感じた事というのが、実は見たもの・聞いた事よりもリアルだと感じていて。そういう、感じた事をフレッシュな形で留めておきたいというのがあって。だから物を書いたり、芝居を作ったりしているんですが。その時自分が一番感じた事を、何故?という疑問を置いておいて「わっ」て捕まえて「ばっ」て紙に流すという感じで書くんです。そういう意味で、今回の「物書きの書き物」の、自分自身の過去の思い出を書いて残しておくというテーマと似てますね。
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- 主人公の女の子が、ね。
- 中谷
- ある意味、私がやっている事と同じで。だから、日記や物を書いたり、芝居をしたりとか、私がやっていた跡を残したいという思いがあります。今まで感じた事を忘れてしまったり、あとは大学で過ごしてきた環境を出る寂しさとかが重なって生まれました。時期的にも卒業式がありましたし。というか、昨日卒業式だったんですけども。
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- あ、おめでとうございます。ええと、何故そういった思いや考え方などを残したいと思われたのでしょうか。
- 中谷
- そうですね、残す理由・・・。一番大きいのは、振り返る事だと思うんですよね。実は、常に忘れてしまう事への怖さがあって。考えた事って、それ自体に形がない為に消えてしまうものだと思うんですね。それって脳の電気信号そのもので、一瞬で消えてしまうもので。
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- どうしてもそうですね。
- 中谷
- 本能的にそれを外に出したいという欲求があって、それを貯めて置くことで振り返りたいと思うんですね。それは物凄く手間の掛かる事だけれ。感覚って、消えてしまうものなんですよ。例えば一本の樹を見て、「あ、キレイ」と思ってもその感情はその時だけに思われるものかもしれんと・・・大分深い話になるんですけども。
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- いえ、どうぞ。
- 中谷
- 大学で、40代・50代の年上の方と話す機会がありまして。お話をする内に物を見る価値観って年と共に変わっていくんやなあと思ったんですね。すると、一本の樹への感想を今のうちに残しておきたいという衝動が。
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- なるほど。
- 中谷
- ある意味で冷静過ぎるのかもしれないですけど、そういう思いは最近特に大きくなってきたように思います。
- ※「物書きの書き物」
- 公演時期:2008年3月1~2日。会場:アトリエ劇研。